2026.10.15
鞆の浦の名産「保命酒」とは?|江戸時代から続く港町の歴史と文化
鞆の浦歴史紀行
鞆の浦歴史紀行 Vol.11
潮待ちの港として栄えた鞆の浦には、この町を訪れ、この町から旅立ち、そしてこの町を想い続けた人々の物語が数多く残されています。
「鞆の浦歴史紀行」は、そんな鞆の浦にゆかりのある人物や出来事を、全12回にわたってご紹介していくシリーズです。
第11回は、鞆の浦の名産「保命酒(ほうめいしゅ)」。
鞆の浦の港の周辺を歩くと、昔ながらの町家に「保命酒」の看板が掲げられ、今も酒造りが続く蔵元やお店に出会えます。
お客様から「保命酒はどんなお酒ですか」と尋ねられることもあります。
実はこの保命酒、江戸時代から鞆の浦で造られてきた歴史あるお酒です。
今回は、保命酒が生まれた背景と港町で発展した歴史、そして今も鞆の浦に残る酒造りの風景をご紹介します。
鞆の浦で生まれた「十六味地黄保命酒」
保命酒の始まりは1659年(万治2年)。
大坂から鞆へ移り住んだ中村吉兵衛が、薬味を用いた酒の製造販売を始めたと伝えられています。
もち米や米麹などを原料とした酒に、地黄(じおう)をはじめとする和漢の薬味を漬け込んで造ることから、「十六味地黄保命酒」とも呼ばれます。
とろりとした甘さの中に、薬味由来の独特な香りが広がるお酒です。
江戸時代には福山藩の特産品として扱われ、献上品にも用いられました。
鞆の浦の一軒の酒造りから始まった保命酒は、やがて福山藩を代表する名産品として知られるようになりました。
船と商人が集まる港で育った酒造り
保命酒が鞆の浦で発展した背景には、港町としての賑わいがあります。
風と潮を頼りに航海していた時代、鞆の浦は船が潮の変わる時を待つ港でした。
北前船などの商船が寄港すると、船乗りたちは町で食事を取り、商人たちは荷物を売り買いしながら、次の航海に必要な品をそろえます。
全国から人が集まる港は、鞆で造られた品物を各地へ送り出す場所でもありました。
保命酒も、こうした海運の発展とともに広く知られるようになり、港町の商いを支える産業の一つとなっていきます。
現在も港周辺に残る商家や酒蔵は、鞆の浦が多くの船や商人で賑わっていた時代の名残を伝えています。
▶ 関連記事|鞆の浦歴史紀行 Vol.6|北前船が育てた潮待ちの港
朝鮮通信使をもてなした一杯
保命酒は、日本各地から訪れた船乗りや商人だけでなく、海を越えて鞆の浦へやって来た人々にも振る舞われました。
江戸時代、朝鮮王朝から日本へ派遣された外交使節「朝鮮通信使」です。
通信使は瀬戸内海を通る道中で鞆の浦に立ち寄り、福禅寺の客殿「対潮楼」などで日本の人々と交流しました。
その際には保命酒も振る舞われ、味を称えた漢詩が残されていると伝わっています。
今も対潮楼には、朝鮮通信使が鞆の浦の景色を称えた「日東第一形勝」の扁額が掲げられています。
美しい瀬戸内海の眺めとともに、鞆で造られたお酒も遠来の客を迎えるもてなしの一つだったのです。
私たちが普段お客様にご提供している保命酒が、300年近く前にも海外からのお客様を迎える席で振る舞われていたと思うと、少し親しみが湧いてきます。
▶ 関連記事|鞆の浦歴史紀行 Vol.7|朝鮮通信使が愛した港町
酒蔵の面影が残る太田家住宅
保命酒の歴史を伝える場所の一つが、常夜燈のすぐ近くにある「太田家住宅」です。
保命酒を製造販売した中村家ゆかりの建物で、主屋や酒蔵などが国の重要文化財に指定されています。通りに面した大きな町家と、その奥に連なる酒蔵。
現在の建物からも、保命酒造りが盛んだった江戸時代の商家の姿をうかがうことができます。
常夜燈からほど近い場所に、こうした立派な酒蔵が残されているのも、かつての鞆の浦で港と商いが深く結びついていたことを物語っています。
港の風景とあわせて訪れることで、保命酒がこの町で育まれてきた歴史を、建物そのものから知ることができます。
▶ 関連記事|鞆の浦歴史紀行 Vol.9|鞆の浦の常夜燈と雁木
今も続く保命酒造り|鞆の浦の4つの蔵元
入江豊三郎本店
古くからの製法を大切にしながら、保命酒造りを続ける蔵元です。保命酒のほか、酒粕や保命酒を使ったお菓子なども扱っています。当館がご夕食の食前酒としてご提供している保命酒も、こちらの蔵元のものです。
岡本亀太郎本店
保命酒の元祖とされる中村家から看板や道具を受け継いだ歴史を持つ蔵元です。本味醂の醸造にもこだわり、「岡亀保命酒」を造り続けています。
鞆酒造(保命酒屋)
「トモエ印 十六味保命酒」を造る蔵元です。原酒づくりに欠かせない麹の仕込みにも手間をかけ、独自の味わいを生み出しています。
八田保命酒舗
「赤たる保命酒」で知られる蔵元です。鞆の浦で受け継がれてきた和漢の薬味を使った保命酒造りを続けています。
「保命酒って、どんな味がするんですか?」
お客様から尋ねられることもありますが、保命酒はとろりとした甘さと、和漢の薬味ならではの香りが特徴のお酒です。
試飲を行っている店舗では、それぞれの味わいを確かめながら、お好みの一本を探すこともできます。
保命酒を使ったお菓子なども販売されており、お土産選びにも楽しみが広がります。
※保命酒はアルコールを含みます。飲酒・試飲は20歳以上の方に限り、お車を運転される方や妊娠中・授乳中の方はお控えください。
鷗風亭で楽しむ保命酒
ホテル鷗風亭では、ご夕食の食前酒として、鞆の浦の蔵元「入江豊三郎本店」の保命酒をご提供しています。
入江豊三郎本店は、古くから受け継がれてきた製法を大切にしながら、現在も保命酒造りを続ける蔵元の一つです。
瀬戸内の旬の味覚を使った会席料理の始まりに、鞆の浦で造られた保命酒を一杯。
地元のお酒ならではの甘みや香りをお楽しみいただけます。
また、当館のドリンクメニューでは、保命酒と戸河内ウイスキーを組み合わせたオリジナルハイボール「鞆の浦ハイボール」もご用意しています。
保命酒の甘みと戸河内ウイスキーの豊かな香りが重なり、爽快な後味が楽しめる一杯。
食前酒で保命酒を気に入られた方や、いつもとは少し違った飲み方を楽しみたい方にもおすすめです。
当館でご提供している保命酒は、売店でお買い求めいただけます。
食前酒としてご提供している「入江豊三郎本店」の保命酒のほか、「岡本亀太郎本店」の保命酒も取り揃えております。
また、「保命酒のど飴」や酒粕も人気のお土産です。酒粕を気に入られ、まとめ買いされるお客様もいらっしゃいます。
お食事の際に保命酒を気に入られた方はもちろん、ご家族やご友人へのお土産をお探しの方も、ぜひ売店をのぞいてみてください。
港から酒蔵へ
保命酒の歴史を知ったあとは、実際に酒蔵やお店を訪ねてみるのもおすすめです。
常夜燈から太田家住宅へ向かう通りには、昔ながらの町家が並び、保命酒を扱うお店や酒蔵が点在しています。
店先に並ぶ保命酒を眺めたり、お店の方におすすめを尋ねたり。
蔵元ごとの品ぞろえやお店の方との会話を楽しみながら、気になる一本を探してみてください。
歴史ある建物の中で、今も変わらず保命酒が造られ、販売されている。
そんな風景に出会えるのも、鞆の浦の町歩きの楽しみです。
常夜燈や太田家住宅を巡る途中、保命酒の看板にも目を向けてみてください。
保命酒とともに受け継がれてきた港町の文化
江戸時代に生まれた保命酒は、360年以上の時を経た現在も、鞆の浦の名産として親しまれています。
港の周辺を歩いたあとは、ホテル鷗風亭のご夕食でも、鞆の浦で造られた保命酒をお楽しみいただけます。
町のお店で目にしたお酒を、今度は瀬戸内の旬の味覚とともに味わっていただく。そんな過ごし方も、鞆の浦ならではの旅の思い出になると思います。
次回の「鞆の浦歴史紀行」では、「なぜ鞆の浦は日本遺産に選ばれたのか」をテーマに、これまでご紹介してきた港町の歴史や文化を振り返ります。
【参考資料】
▷ 福山市「鞆町の歴史(近世)」
▷ 文化庁 日本遺産「瀬戸の夕凪が包む 国内随一の近世港町」
▷ 鞆物語「鞆の浦の保命酒」
▷ 鞆の浦歴史紀行 Vol.6「北前船が育てた潮待ちの港」
▷ 鞆の浦歴史紀行 Vol.7「朝鮮通信使が愛した港町」
▷ 鞆の浦歴史紀行 Vol.9「鞆の浦の常夜燈と雁木」
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